はじめに
緑内障は、見える範囲、つまり視界、視野が狭くなる病気です。緑内障が悪化し続けて最終状態になると失明してしまいます。私たちの命には寿命があります。緑内障になったからといって必ず失明するというわけではありません。生きている間に緑内障が最終状態にならなければ失明はしませんし、大半の方は失明しません。しかし緑内障の患者さんがとても多いので、失明する率が低くても失明してしまう患者さんは多くなります。日本の現在の失明原因の第一位は緑内障です。緑内障は早期発見、早期治療が大切ですが、日本での緑内障の患者さんの80%近くはまだ発見されておらず無治療のままになっています。これが失明者を増やす原因の一つです。
目は、水が入ったボールの形をしていて「眼球」と呼ばれます。光が「眼球」の中に入ると電気信号に変換されます。電気信号は「視神経」という電線を通って、「脳」というコンピュータに到着すると「見える」わけです。「見える」ためには、「眼球」、「視神経」、「脳」の3つともが正常でなければなりません。緑内障(緑内障性視神経症)は、「眼球」と「視神経」のつなぎ目が切れてしまう病気です。切れてしまうと電気信号は脳へ伝わらないので見えなくなってしまいます。「視神経」という電線は、120〜130万本の細い電線が集まって束になっています。電線がすべて切れてしまうとまったく見えなくなります。半分切れれば視界の半分が見えなくなります。
「眼球」と「視神経」のつなぎ目が切れているかどうかを調べるためには、まず眼底検査を行います。正面から目の中をのぞくと「眼球」と「視神経」のつなぎ目の断面図が見えます。断面の形はまるく、まん中はへこんでいます。へこんでいる所には神経という電線がありません。まわりのへこんでいない所に電線があります。緑内障になると電線の数が少なくなるので、電線の残っているへこんでない所が少なくなり、へこんでいる所が多くなります。つまり緑内障になると「眼球」と「視神経」のつなぎ目の断面図のへこみが大きくなります。逆に、へこみの大きい人は緑内障を疑われます。
緑内障の原因のほとんどは生まれつきのもの、つまり体質です。日常生活とは関係ありません。その他の原因には、全身の病気、目の他の病気、けが、薬(ステロイド)などがあります。
緑内障の診断がつけば治療を始めます。治療は眼圧を下げることです。もとの眼圧がいくらであっても、これをさらに下げることが治療になります。眼圧を下げれば下げるほど緑内障の悪化するスピードを遅らせることができます。どのくらい眼圧を下げればよいのかは患者さんによってちがいます。眼圧を下げる方法には目薬、飲み薬、レーザー、手術があります。どの方法を選ぶかも患者さんによってちがいます。
一度失われてしまった視野は治療をしても元に戻りません。治療の目的は現状維持です。治療によって緑内障の悪化を完全に止めることが可能なこともありますが、多くの場合は緑内障の悪化を完全に止めることは難しく、緑内障の悪化するスピードを遅らせて時間かせぎをすることになります。時間かせぎをして寿命をまっとうするまでなんとか見える状態を保つことを目標とします。